Column

コラム

終活

運転免許証の自主返納、親をどう説得する?

2021.07.21

50代女性の親といえば、ほとんどが後期高齢者。昨今、ニュースを騒がせている「高齢ドライバーによる交通事故」も決して他人事ではありません。「うちの親は大丈夫かしら」と、頭をよぎる人も多いのでは? 親が心身共に弱ってきたときの対処法を一緒に考えるのは、子どもの役割ともいえます。今回は、親の運転免許証の自主返納について考えてみます。

加齢とともに低下する運転能力

ここ数年、交通事故に占める高齢運転者の割合は約17%(警視庁交通総務課調べ)。事故の原因の半分以上は「操作不適」「安全不確認」です。注意力や集中力の低下、瞬間的な判断力の低下などにより、操作ミスや前方不注意などが起こりやすくなっているのです。そして最も恐れるのがブレーキとアクセルの踏み間違いによる大事故ですね。
「まだまだ自分は大丈夫」と自分の運転技術を過信している人ほど事故を起こす確率は高くなり、何らかの持病があれば事故率はさらにアップ。高齢者の運転は危険と隣り合わせと言っても過言ではありません。
「自分の親には、なるべく早く免許証を自主返納してもらいたい」と思うのが子どもの本音。

しかし、車を運転できることが心の拠りどころや健康のバロメーター、あるいは生きがいになっているという高齢者も多くいます。地域によっては、生活の足として車が欠かせない場合もあります。ですから、こちらが免許返納の話を当たり前のように持ち出すと、「こっちの事情も知らないで」と親は困惑し、怒りだしてしまうのです。

返納話をスムーズに進めるためには、親の日常の周辺環境を理解し、冷静に解決策を考えるスタンスを持つことが大事です。

頭ごなしに言うのはNG。返納した誰かを引き合いに出す

まず、親が70歳を過ぎたら、ときどき車に同乗し、運転の様子をチェックしてみましょう。右折左折時にウィンカーをきちんと出しているか、カーブをきちんと曲がれているか、歩行者や他の車に注意がいっているか、車庫入れのとき壁にこすっていないか。

1つでも不安があれば、そろそろ自主返納のタイミングと考えてもいいでしょう。
そのとき、「もう年だから」「事故を起こしてからでは遅い」など、上から目線の言い方はNGです。

特に男性の場合、子どもにこんなことを言われるなんてと、プライドが傷つき、かえって意固地になるケースがあります。女性の場合は、「駐車は昔から苦手で、若い時もこすったこと、あるし」などと言い訳はするものの、気持ちが落ち込んでしまうケースが少なくありません。

最初は、何かの話のついでに、さりげなく「○○さんが免許証を返納したみたいね」など、同年代の身近な人が返納した話をして、そろそろ自分もそうすべきかな、と気づいてくれるように促します。
親戚など身近に返納した人がいれば、その人に直接話してもらうのも有効です。

家族の話は聞けなくても、第三者の話には耳を傾けるもの。知り合いにいなければ、芸能人を引き合いに出してもいいでしょう。70歳代ですでに返納している人もかなりいるからです。たとえば、俳優の杉良太郎さんは74歳で、“尾木ママ”こと尾木直樹さんは72歳で、それぞれ返納しています。

少しずつ外堀を埋める戦法で

自主返納について、親が少し理解を示してくれるようになったら少しずつ外掘を埋めていきます。

お茶菓子を食べながら、呑気な口調で「1人では運転しないほうがいいと思うなあ」「目も悪いし、暗くなってから運転すると危ないんじゃない?」「土砂降りの日は私でも運転しないよ」など、本人が聞き入れてくれそうな小さな事案から始め、徐々に運転の機会を減らしていきます。さらに、「80歳の誕生日を返納記念日にする人も多いみたいね」など、具体的な数字を出して、期限を切って提案するのもいいかもしれません。

車がなくなったら生活の移動手段が奪われる、という場合は、「買い物に行くならバスがある」「病院に行くときはタクシーを呼べばいい」「週末なら子どもたちが運転する」など、さまざまな提案をしましょう。代替案があれば、「そういう方法もあるか」と前向きになってくれます。

ほとんどの自治体では、自主返納した満70歳以上の高齢者に向けて、路線バスや地下鉄などが一定期間無料、もしくは半額になるシルバーパスを発行しています。車を運転するよりも公共交通機関を利用するほうが歩く機会が増え、健康にもいいと伝えましょう。

ちなみに私の父親は、バスの乗り場が遠いからと、車を手放すことをずっと渋っていました。しかし電動自転車を購入したことで日常の不便を解消し、自主返納に至りました。

また、運転免許証を本人確認の書類に使っている人には、その代わりとなる「運転経歴証明書」が発行されます。さらに、自主返納した特典として、美術館や飲食店での割引や商品券の贈呈などを行っている自治体もあります。

このように、運転免許証を返納することはネガティブなことではなく、むしろ新しい生活が始まるきっかけになると理解してもらうことで、説得しやすくなります。

なお、各種特典は自治体によって異なるので、直接問い合わせてください。

合津 玲子 (ごうつ れいこ)
青山学院大学英米文学部卒業後、編集プロダクションに入社。雑誌『レタスクラブ』等の編集に携わったのち、独立。
旅好きが高じ、JTBやブルーガイドの旅行本を多数取材・執筆。現在、ウェブマガジン「旅色」で巻頭女優インタビューを担当。趣味は城めぐりと俳句。主な著書に『トーキョーご利益案内』(六耀社)、『コーヒーのある暮らし』(池田書店)、『ブラタモリ』(角川書店)、『ガイドブック楽々』(JTBパブリッシング)などがある。
コラムTOPへ