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「高齢者は賃貸住宅が借りづらい!?」本当のところを不動産コンサルタントの長嶋 修さんに聞いた。

2021.07.09
文:LiliShe

ナイスミディの両親世代が直面する「高齢者の賃貸住宅問題」。
「自分の住みたい家に住む」というごく当然のことが難しいケースがあることをご存知でしょうか?

今回は不動産コンサルタントとして不動産、住宅市場のみならず経済問題や社会問題全般にも造詣が深く、著書やメディアでも積極的に発信されている長嶋修さんに、高齢者の賃貸住宅問題についてお話しを伺いました。

高齢者の住宅問題、大家の最大の懸念は「孤独死」

---高齢になる前に家を購入しておいた方が安心だという意見がある一方で、今後、人口減による空き家の増加により高齢者の住宅問題もそこまで心配しなくても良いという見方もあります。この点をどのようにお考えでしょうか?

長嶋氏:「年をとると賃貸が借りられなくなるなんて未来はやってこないですよ」と言い出したのは私だったかもしれないですね。とは言え、大家が貸さない、と言えばそれまでなんですが。

そもそもなぜ高齢者に賃貸住宅を貸しにくいかというと、孤独死されてしまうと困るからなんです。

孤独死される=事故物件になる懸念があります。これについては国交省が自然死であれば孤独死にならないというガイドラインを作成中です。それが制定されれば自然死まで事故物件という扱いにはならないでしょう。

ただこれまでの判例では、孤独死して1週間以上経っての発見により遺体の腐敗が進み、臭いなどが充満し建物に影響が出るような場合は事故物件と認定されるケースが多いです。

そもそも事故物件に定義はなく、大家も不動産屋もこれまでの判例を参考にしてきました。

一方で、既に高齢化社会に突入しており益々このトレンドが進行する中で、保険で対応しようとする動きが出ており、大家向けの「孤独死保険」があります。

さきほどのような居室に影響が出た場合や残置物の引き取り手がいない場合の処理に対応するものです。

更に大きいトレンドとしては、今後日本の人口の10人に4人が高齢者となり、市場の40%を占める高齢者に借りてもらわない訳にはいかなくなります。

もちろん立地の良いところに物件を持っている一部の超強気な大家は別ですが、大半はそうしないと不動産投資や大家業自体が成り立たなくなります。

---大きなトレンドとしては、高齢者の賃貸問題はそこまで顕在化しないだろう、ということでしょうか。

長嶋氏:ただ、私は今東京の都心部に住んでいますが、この辺りだとまだ高齢者には貸しづらいという大家もいます。

---それはもう少し制度が整えば解消されることなのか、あるいは大家の心理的な面から敬遠されているのでしょうか?

長嶋氏:心理的な側面が多分にあると思います。その一件を断ってもまたすぐに次が来るだろうという大家側の計算もあるでしょうし。

---需要と供給のバランスということですね。長嶋さんはたくさんの大家さんをご存知だと思いますが、やはり今は依然として孤独死を敬遠されている大家さんは多い印象でしょうか?

長嶋氏:5年、10年前と比べると変わってきています。10年前は不動産屋が大家に相談することもなく高齢者には貸さないと断っていましたが、段々緩和されてきている印象を持っています。「まだ高齢者には貸したくないという大家さんもいますよね」、ぐらいの感じが今の雰囲気です。需要が見込める都市部によりそういう大家が多いですね。

国交省ガイドラインの意義

---より高齢者が賃貸物件を借りやすくするために、既存の制度やサービスで不備や改善の余地がある点があれば教えていただけますか。

長嶋氏:先述の国交省のガイドラインでは、どの程度を事故物件とするかということ以上のことは考えていないようです。後は今後高齢者が増えるので市場の原理としてみんな貸すようになるでしょう、ぐらいにしか考えていない模様です。

国交省も民間の取り組みをあまり縛ることができないですしね。公営住宅やURは高齢者も入居させる方向になると思いますが。

---そうすると現在作成中の国交省のガイドラインはかなり大きな前進ではありますか?

長嶋修氏:今まで判例に頼って判断されてきたことが、ガイドラインができることによって「この通りに進めますから」と線引きがしやすくなると思います。ガイドラインには法的な拘束力はありませんが、大抵の不動産業者は従うでしょうし、それを元に大家にも話を通しやすくなるはずです。

---事故物件にさえならなければ、大家側の貸すハードルはかなり下がるものでしょうか?

長嶋氏:事故物件は広告や重要事項説明に明記しないといけませんからね。事故物件の賃料が相場よりどれぐらい低くなるか明確なデータはありませんが、一般論としては30%~40%は下がると言われています。

残置物の問題

---昔は家で家族の誰かが「朝起きたら亡くなっていた」というような、身近な家族・親族が家で亡くなる経験を持つ人も多かったですが、現代では死が日常から遠ざかってしまっていることも、自然死までもが事故物件と忌避されてしまう理由かもしれませんね。

一方で、他の大きな問題として、賃借人の死後は賃借権が相続されるという点、残置物の問題があると思います。国交省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項(案)」に関するパブリックコメントを募集している動きはありますが、実際大家にとってこの2つはハードルになっていますか?

長嶋氏:ハードルにはなっていると思います。特に残置物については居住者の死亡だけではなく、夜逃げというパターンもありますからね。夜逃げする人に限って部屋が汚いんですよ。その処理に大家が数十万円を負担することもあります。

高齢者が「住みたい家」を選ぶには?

---高齢者も住むところが全くないかというとそうではなく、公団やUR、古い賃貸物件など選ばなければある、という現状だと思います。支払い能力のある高齢者が若い人と同じように自分の住みたい物件を好きなように選べるようになるのはハードルが高いものでしょうか?

長嶋氏:私が先日アドバイスした方に、一度入居を断られたが、入居時の預り金として200万円を納めて入居できた方がいました。

---やはりそういった、何か問題があった際にも大家に安心感を提供できるものが必要になってくる、と。

長嶋氏:別のケースでは預金通帳の写しを提出して入居がOKになったこともあります。年金暮らしではあるが経済力はある、また何かあった際に請求できるという安心感を大家に与えるものです。預金通帳が改ざんされる可能性まで考えるとそれまでですが。

高齢者の 「賃貸 vs 持ち家」 問題、健康寿命の最大化

---少し話題を変えさせていただきます。「賃貸 vs 持ち家」論争は永遠のテーマとしてありますが、高齢者に限定した場合、賃貸と持ち家、どちらが良いかというよりそれぞれにどういうメリット・デメリットがあるか教えていただけますか。

長嶋氏:結局はどういう年の取り方をするかによりますね。千葉県にUR柏豊四季台団地というところがあり、厚労省や国交省が実証実験をしています。古い団地なので、若い頃から借りて住んでいる人たちは高齢で、そんなに所得も高くない人たちが多い中で、老いとどう向き合っていくかということをやっています。

そこで結局一番大事なのは「元気なまま死ぬこと」という話になっているんです。

団地の中に散歩コースを作ったり、若い世代も団地に入ってきてコミュニティ形成やコミュニケーションを図れるような取り組みで、要は健康寿命を延ばそう、ということです。これを5年程前からやっていて、うまくいったので去年あたりからこのモデルを全国の公団に拡大していこうとする動きがあります。

---医療費の抑制にもなりますね。

長嶋氏:どんなアンケートでも「自宅で死にたい」という声が多いんですよ。高齢者向け施設を作るのも重要ですが、レベルはありますが在宅介護ができるような状況を各地域でどう作るかがより重要だと思います。そういう意味では賃貸か持ち家かはあまり関係ないですが、持ち家の場合は高齢になると建物の維持管理がしづらくなりますよね。

今の高齢者は高度経済成長期を生きてきた人たちなので、夫婦二人と子供二人で車を持ち、郊外の4LDKを新築購入し、今や子供も巣立ち築40年の4LDKで夫婦二人か一人暮らし。高齢に伴い動けなくなると2階は行かない。広い割には限られたスペースでの生活になっている。となると大きい家を持っていることは負担になるかもしれません。

高齢者向け賃貸住宅の需要

---大手ハウスメーカーが高齢者向け賃貸住宅を建てているという話も聞きます。大家目線で、今後賃貸経営は厳しくなっていくものでしょうか?

長嶋氏:高齢者向け賃貸住宅を積極的に建てるとはなりづらいと思います。大家としてはなるべく立地の良いところに高所得の人を入れたいはずですので。色々なカテゴリーはありますが、高齢者を狙ってというのは考え過ぎのような気もします。実際お金のある高齢者は持ち家に住んでいるものですしね。

もちろん不動産を処分して現金化している人には良いかもしれませんがなかなかそうはなりづらい現状があります。思い入れがある、荷物が多い、面倒臭いなどの理由でそのままになってしまうケースがほとんどです。

住まい選びの新たな視点「自治体の経営力」

長嶋氏:今までは立地で住む場所を選んでいましたが、今後は「自治体の経営力」が非常に重要になってきます。現在多くの自治体が積立金を取り崩して予算を組んでいる状態なんです。それは予算に見合う税収がないからです。そしてあと2~3年すると多くの自治体がその積立金を使い果たすことになります。

そうすると、金融機関から融資を受けるか、行政サービスを縮小せざるを得なくなる。高齢者対応や子育て支援に差が付き、自治体間の格差がどんどん広がっていきます。

千葉県流山市は人口流入に成功し、税収も行政サービスの予算も増えて良い感じになっています。

流山市は典型的なベッドタウンですが、普通のベッドタウンは高齢者ばかり増え、税収は下がりコストだけ上がるという状況になります。なので流山市のような一部の勝ち組とそうでないところの格差は広がっていくばかり。自治体の経営力の影響は大きいのです。

---都市部でもまちの縮小化をし、使わないインフラは更新しないという話もありますものね。

長嶋氏:一部の地方の自治体ではそれが既に現実になってきています。税収が下がる中、行政効率を上げるためいかに市民一人当たりにかけるコストを下げるか、を自治体は考えています。今までは積立金の取り崩しで賄えていましたが今後5年~10年ほどで待ったなしの状況になるでしょう。

---以前は都心に近い、駅に近いという視点で見ていたのが、行政の経営力というものがもう一つ評価軸に加わるということですね。

長嶋氏:流山市にいたっては、駅まで子供を連れていけば駅の中に子供を預けるステーションのような場所があり、そこから保育園等に連れて行ってくれるバスが出ているんですよ。夕方はまたそこに子供を送り届けてくれるので、親御さんは駅にさえ行けば良く、自宅、保育施設、駅の往来がかなり簡素化されています。それを1回100円で頼めるシステムがあり、物理的な距離は関係なくなってきていますよね。 

これからの住まい選びは立地だけでなく、暮らしやすさや地域サービスを支える「行政の経営力」に着目してみると良いでしょう。

不動産コンサルタント 長嶋 修
1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。
2008年、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会設立、理事長に就任。
2018年、一般社団法人地域微動探査協会 理事に就任。様々な活動を通して『中立な不動産コンサルタント』
としての地位を確立。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。
新著に『災害に強い住宅選び』(日経BP社)他、著書・メディア出演多数。

LiliShe (リリシー)
ナイスミディに必要な「情報」と「癒し」を発信します。
女性が今を楽しく、幸せに生きるために、そして人生を潔く全うするために。​​
楽しいこと、辛いこと、悲しいことを共有し、寄り添い続けます。​​
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